以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜
序章:光輪、深淵より
京都、祇園。八坂の塔の影が長く伸びる頃、人気のない路地を抜けた先に、忘れ去られたように佇む古祠。「光輪の社」。朽ちかけた鳥居に絡みつく蔦は、幾星霜の時を物語る。
祠には、血と涙で綴られた古の伝説が封じられていた。
「光輪石」― 月の雫が凝り、星の欠片が宿ったかのような、異様なまでの美しさを放つダイヤモンド。それは、権力と欲望の象徴。手にした者に、この世の全てを与えると同時に、逃れられない破滅をもたらす、呪われた宝石。
室町、戦国、江戸、明治…光輪石は、時代の闇を渡り歩き、幾多の魂を弄び、滅ぼしてきた。その冷たい輝きは、人間の心の奥底に潜む、光と影を映し出す鏡。
そして、現代。光輪石は、「F2576」と名を変え、銀座のハリー・ウィンストン本店に鎮座する。ショーウィンドウの奥、深紅のベルベットの上で、それは静かに、しかし、確かな鼓動を刻んでいた。新たな贄を、そして、新たな物語を求めて…。
第一章:宿縁、銀座の残照
ハリー・ウィンストン銀座本店。喧騒から隔絶された空間で、「F2576」は、異様な光を放っていた。2.35カラット、オーバルブリリアントカット。GIA鑑定書(番号6345146735)が示す、絶対的な美(10.72 x 7.34 x 4.52 mm、Fカラー、VVS2クラリティ、ベリーグッドのカット、ポリッシュ、シンメトリー、フェイントの蛍光、「thin to thick (faceted)」のガードル)。しかし、それは、人を寄せ付けない、冷たい美しさ。まるで、深淵を覗き込むような、底知れぬ畏怖を抱かせる。
橋本 巧は、ハリー・ウィンストンのチーフデザイナー。金沢の金箔工芸の名門「橋本屋」に生まれた彼は、伝統と革新の狭間で、常に揺れ動いていた。「F2576」のデザインは、彼にとって、宿命との対峙。彼は、この石に、美しさだけでなく、言いようのない「怖さ」を感じていた。それは、美しすぎるもの、完璧すぎるものが持つ、危うさ。
瀬尾 あかりは、京都の東山、清水寺近くにアトリエを構える日本画家。彼女の描く水墨画は、静謐な中に、激しい情念を秘め、見る者の魂を揺さぶる。しかし、彼女自身は、深い孤独と虚無感の中に生きていた。幼い頃に両親を亡くし、京都の老舗画廊「西園寺」の女将、西園寺 綾乃に引き取られた彼女は、綾乃の庇護の下、才能を開花させた。しかし、その代償として、彼女は、綾乃の支配から逃れられずにいた。
運命の夜、二人は出会う。ハリー・ウィンストン主催の新作発表会。あかりは、綾乃に連れられ、その場にいた。華やかなドレスを纏った人々、シャンデリアの煌めき…全てが、あかりには、空虚で、嘘っぽく感じられた。
そして、彼女は「F2576」と出会う。その瞬間、時間が止まった。ダイヤモンドの冷たい光が、彼女の心の奥底に眠っていた、何かを呼び覚ました。それは、懐かしさと恐ろしさが入り混じった、奇妙な感覚。
「…誰…?」あかりは、無意識のうちに、呟いていた。
その声に、巧が振り向く。彼は、あかりの青ざめた顔と、その瞳の奥に宿る、深い悲しみと絶望、そして、かすかな希望の光を見た。彼は、その瞬間、全てを理解した。この女は、「選ばれた」のだと。
「この石は…」巧は、言葉を選びながら、語り始めた。「…ただのダイヤモンドではありません。…運命を、変える力を持っています」彼は、「F2576」に秘められた物語、そして、彼が感じているこの石の持つ、魔性と神性の両面を、あかりに伝えた。彼は、このダイヤモンドが、あかりを救うと同時に、破滅させる可能性をも、感じていた。
第二章:古都、光と影の綾なす迷宮
あかりが「F2576」を身につけた日から、彼女の周囲で、不可解な出来事が頻発する。それは、まるで、石が彼女の心に共鳴し、その内なる闇を増幅させているかのようだった。
彼女の描く絵は、ますます力強さを増し、見る者を圧倒する。しかし、そこには、美しさだけでなく、狂気と破滅の予兆が漂っていた。墨の黒は、より深く、濃く、血の色を思わせる赤が、不吉なアクセントとして、画面を彩る。
巧は、あかりの異変を感じ取り、京都を訪れる。彼は、あかりのアトリエで、彼女の新作を目にした。それは、月光に照らされた枯山水の庭を描いたもの。しかし、その庭は、どこか歪んでおり、石組みは、まるで骸骨のように見えた。そして、月の光は、冷たく、鋭く、見る者の心を凍てつかせる。
二人は、京都の古刹を巡る。清水寺の舞台から、眼下に広がる街並みを眺め、建仁寺の双龍図の前で、言葉を失い、銀閣寺の庭で、侘び寂びの世界に心を浸す。日本の伝統文化に触れる中で、巧は、あかりの心の奥底にある、深い闇の正体を探ろうとした。あかりは、巧の温かい眼差しと、彼の持つ芸術への真摯な姿勢に、次第に心を開いていった。しかし、彼女は、「F2576」の呪縛から逃れることができなかった。
夜、あかりは、悪夢にうなされる。夢の中で、彼女は、血塗られた着物を着た女に追いかけられる。女は、あかりに、「F2576」を返せと、怨嗟の声を上げる。そして、女の顔は、次第にあかり自身の顔へと変わっていく…。
あかりは、夢と現実の区別がつかなくなり、次第に精神を蝕まれていった。彼女は、「F2576」が、自分を破滅へと導くのではないかと恐れていた。しかし、同時に、このダイヤモンドの持つ、抗い難い魅力に、囚われてもいた。それは、まるで、死の淵に咲く、妖しくも美しい花に魅入られるような感覚。
そんな中、黒川 龍之介が、再びあかりの前に姿を現す。表向きは、日本の伝統文化を守る高潔な政治家。しかし、その裏の顔は、美術品や骨董品の不正取引で私腹を肥やす、闇社会の黒幕。黒川は、「F2576」の真の価値、そして、その石にまつわる血塗られた歴史を知り尽くしていた。彼は、このダイヤモンドを、自分の権力と欲望を満たすための、究極の道具にしようと企んでいた。
黒川は、あかりに、「F2576」を自分に譲るよう、巧妙に、そして執拗に迫った。彼は、あかりの過去のトラウマ、西園寺 綾乃との歪んだ関係、そして、彼女の芸術家としての弱さを突いて、精神的に追い詰めていった。黒川は、あかりの心の闇を、巧みに利用し、彼女を支配しようとした。
第三章:過去の亡霊、絡み合う宿命の糸
巧は、あかりを救うため、「F2576」の謎を解き明かすことを決意した。彼は、金沢の実家に戻り、父から「橋本屋」に代々伝わる古文書を見せてもらった。そこには、「光輪石」と呼ばれるダイヤモンドの、血塗られた歴史が記されていた。
光輪石は、室町時代、足利義政が所有していた。義政は、光輪石の妖しい輝きに魅入られ、政治を顧みず、文化と享楽に溺れた。そして、応仁の乱が勃発し、京都は焦土と化した。
その後、光輪石は、数奇な運命を辿り、戦国武将、豪商、没落した公家…権力と欲望の渦巻く世界を渡り歩いた。そして、その度に、光と影の物語が繰り返された。光輪石を手にした者は、一時的な栄華を極めるが、必ずや破滅へと導かれた。
明治時代、橋本屋の初代は、偶然、光輪石を手に入れた。しかし、彼は、光輪石の呪いを恐れ、金沢の山奥にある古寺、宝幢寺に、その石を封印した。
巧は、光輪石が「F2576」であることを確信した。彼は、あかりを救うためには、光輪石の呪いを解き、その石に宿る負のエネルギーを浄化しなければならないと考えた。彼は、古文書に記された宝幢寺の場所を探し始めた。
一方、あかりは、黒川の圧力に屈し、「F2576」を彼に渡すことを決意していた。彼女は、西園寺 綾乃への義理、そして、自分の過去のトラウマから逃れるために、黒川の甘言を受け入れてしまったのだ。彼女は、巧への愛と、自分の芸術を守りたいという願いの間で、激しく葛藤していた。しかし、彼女の心は、すでに限界に達していた。彼女は、自らの魂を、闇に売り渡そうとしていた。
あかりは、黒川に「F2576」を渡す前夜、巧に電話をかけた。
「巧さん…ごめんなさい…私…もう…自分を…止められない…」
あかりの声は、絶望に震え、今にも消え入りそうだった。
第四章:嵐山、光と影の決戦、魂の解放
巧は、あかりが黒川に「F2576」を渡す場所、京都、嵐山の渡月橋近くにある黒川の別荘へと急いだ。
別荘では、黒川が、あかりに「F2576」を渡すよう、最後の圧力をかけていた。黒川は、あかりの過去の秘密、そして、西園寺 綾乃との愛憎に満ちた関係を暴露し、彼女を精神的に追い詰めていた。あかりは、絶望の淵に立たされ、自らの運命を呪っていた。彼女は、もはや、人形のように、黒川の言いなりになるしかなかった。
その時、巧が別荘に到着した。彼は、黒川に立ち向かい、あかりを救おうとした。しかし、黒川は、屈強な用心棒たちを呼び寄せ、巧を排除しようとした。
激しい格闘の末、巧は、用心棒たちを倒した。しかし、彼は、黒川に捕らえられ、絶体絶命の危機に陥った。黒川は、巧に、あかりの過去の秘密を暴露し、彼を嘲笑した。
「お前は、この女の何も知らない!彼女は、呪われているんだ!光輪石の呪いに!そして、お前も、その呪いに呑み込まれるのだ!」
その時、あかりが、「F2576」を手に、黒川に立ち向かった。彼女は、巧への愛と、自分自身の運命を切り開く決意を胸に、黒川に「F2576」を渡すことを拒否した。
「私は、もう誰の言いなりにもならない!私は、私自身の人生を生きる!たとえ、この石の呪いを受けようとも!」
あかりの言葉に、黒川は激昂し、彼女に襲いかかった。しかし、その瞬間、「F2576」が、月光のような冷たい光を放ち、黒川の動きを止めた。
「F2576」の光は、黒川の心の闇を照らし出し、彼の過去の罪を暴いた。黒川は、長年にわたる不正取引、権力濫用、そして、数々の女性への裏切りが露見し、警察に逮捕された。
「F2576」の光は、あかりの心の闇をも照らし出した。彼女は、過去のトラウマ、西園寺 綾乃との歪んだ関係、そして、自分自身の弱さと向き合うことを決意した。
第五章:宝幢寺、浄化と再生の光
黒川の逮捕後、巧とあかりは、「F2576」の呪いを解くため、金沢の山奥にある宝幢寺を訪れた。
宝幢寺は、荒れ果て、廃墟のようになっていた。しかし、本堂の奥には、古びた祭壇があり、その中央に、一つの窪みがあった。巧は、橋本屋に伝わる古文書に記された通り、「F2576」をその窪みに置いた。
すると、「F2576」は、再び光を放ち始めた。その光は、最初は冷たく、鋭かったが、次第に温かく、優しい光へと変化していった。そして、光が収まると、「F2576」は、本来の純粋な輝きを取り戻していた。
巧は、「F2576」の呪いが解けたことを確信した。彼は、あかりに、「F2576」を再び贈った。
「これは、もう呪われた石じゃない。僕たちの愛と、新たな始まりの象徴だ。そして、過去の全てを乗り越え、未来へと進むための、希望の光だ」
あかりは、巧の言葉に、涙を流した。彼女は、「F2576」を受け取り、巧の腕の中で、深く抱きしめられた。
エピローグ:未来への光、永遠の輝き
数年後、巧とあかりは、京都の東山、高台寺を見下ろす丘の上に、小さな家を建てた。その家は、二人の愛と創造の結晶だった。
巧は、工房で、金沢の金箔工芸と、京都の伝統的な金工技術を融合させた、新しいジュエリーを作り続けた。彼の作品は、日本の美意識と、二人の愛の物語を体現していた。そして、彼の作品には、「光輪石」の伝説が、静かに息づいていた。
あかりは、アトリエで、水墨画の新たな境地を開拓していた。彼女の絵は、光と影、生と死、そして、永遠と無常をテーマに、観る者の魂を深く揺さぶった。そして、彼女の絵には、「F2576」の輝きが、永遠に宿っていた。
二人の間には、娘が生まれた。彼女は、「未来(みらい)」と名付けられた。その名前は、「F2576」がもたらした、希望の光と、二人の愛の結晶、そして、日本の伝統と革新が織りなす、未来への願いを象徴していた。
そして、「F2576」は、巧とあかりの家の床の間に、大切に飾られていた。それは、もはや呪われた宝石ではなく、二人の愛と、日本の美と精神を象徴する、希望の光として、永遠に輝き続けることだろう。
そして、その光は、未来へと続く道を、静かに、しかし、力強く照らし出していた。それは、運命に抗い、真実の愛を貫き、自らの人生を切り開いた、二人の魂の輝きだった。
サイズ14 縦幅10.72mm GIA最新レポート付。素晴らしいハリーウィンストンの大粒ダイヤモンドです。サイドのダイヤモンドの石目は不明ですが、サイドもかなり大きなダイヤモンドです。現物を見たらわかると思いますが、さすがハリーのダイヤモンド。最高です!