★オノレ・ド・バルザック(Honor de Balzac、1799 - 1850)は19世紀のフランスを代表する小説家。トゥールの中流家庭に生まれ、パリで法律事務所見習をしながら創作活動を始める。30歳のときの最初の成功作『ふくろう党』以降、19年間で伝説的な多作ぶりを発揮し、51歳で死去するまでに90篇の長編・短編からなる小説群『人間喜劇』を執筆する。かれは、社会全体を俯瞰する巨大な視点と同時に、人間の精神の内部を精密に描き、その双方を鮮烈な形で対応させていった。そうした社会と個人の関係の他に、芸術と人生、欲望と理性、男と女、聖と俗、霊肉といった様々な二元論をもとに、時に諧謔的に、時に幻想的に、時にサスペンスフルにと、様々な種類の人間を描くにあたって豊かな趣向を凝らして書かれた諸作品は、深刻で根源的なテーマを扱いながらもすぐれて娯楽的でもある。バルザックのアイデアが尽きることはなく、社会におよそ存在しうるあらゆる人物・場面を描くことによって、フランス社会史を形成する壮大な試み『人間喜劇』を構想したが、その死によって中絶する。かれはヴィクトル・ユーゴーや、アレクサンドル・デュマの親友でもあった。サマセット・モームは、『世界の十大小説』のなかで、バルザックを「確実に天才とよぶにふさわしい人物」と述べている。